大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)3133号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

原判決は論旨引用の大審院判例と相反する判断を明示していないばかりでなく、本件第一審判決は被告人と夫剛との間に円満を欠き、夫剛は極度に厭世的となつていたこと、被告人は本件犯行の前日夫の居室内に睡眠剤「アドルム」及び遺書等のあつたのを発見したこと及び夫剛が本件犯行時まで引続き四回に亘り食事を攝らなかつた上自宅二階六疊の間に仰臥し居り、被告人が同人を搖り起さんとしたが覚醒せず四肢をばたつかせたのみであつたことを証拠によつて認定しているのであつて、かような場合には一般通常人の注意を以つてすれば、当時夫剛が睡眠剤を嚥下し正常な感覚を失い昏睡状態となつて居たことを容易に認識し得べかりしものといわなければならない。そして原判決の列挙するその余の第一審判決の確定した事実とを綜合すれば、原判決が被告人において判示の如き適当な注意を払わず、夫の容態を確認せず且火気の適当措置を怠つて外出した点に過失責任を認定して第一審判決を容認したのは結局論旨引用の判例と同趣旨に出でたものというべきであり、所論はその実質において単なる法令違反の主張に歸し適法な上告理由とならない。

(説明)

原審の認定は次のとおりである。

「斯樣な場合斯樣な状況(この点は前記判決參照)にある者を独り家に残して外出するに於ては、留守中に其の者の身体が無意識のうちに炬燵にのしかかり或は寢具衣類等を炬燵に蹴込みこれが為発火して火災を発生し、又は敍上のような強烈な火勢によつて自然に寢具炬燵やぐら等に移火して火災を発生し、延いては身体の自由を失つている其の者に避難の能力なく或は燒死するやも図り難いおそれがあることは当然予想し得ることであるから、若し被告人が斯樣な場合に外出しようというのであつたら、すべからくまず夫剛の容態が正常であるか否か医師を招いて手当を加える必要がないかどうか等の点について十分確めた上、或は外出を思い止るか或はどうしても外出しなければならぬ必要があるとすれば(医師を招いたりする為め其の必要がある場合もあるであろう)灰を以て十分に埋火した上から堅固な金網を施す等火災の発生を予防すべき万全の措置を講じてからのことにすべきであつたと思われる。然るに原判決の挙示する証拠を綜合すれば被告人は斯樣な点について注意を払わず夫が故意に左樣な態度をとるものと軽信し夫の容態を確認せず、又火気の適当措置を怠つて外出した為判示の結果を惹起したものである」これに対し上告理由は被告人のみならずその他の者も夫剛の服毒急病の事実には気付かず又通常人の何人も気付かざりし状態にあつたものであることを主張し、昭和四年九月三日大審院判決の

「過失犯は不注意の結果罪となるべき事実を予見せざりしことを以て其の本質とす。隨つて過失犯の骨子を成すものは罪となるべき事実を予見し得べかりしに拘らずこれを予見せざりしことに在り、而して此の罪となるべき事実の予見の能否は行為当時に於て一般通常人が認識し得べかりし事情及び行為者が特に認識し居たりし事情を基礎とし、其の基礎の上に於て一般通常人の注意を払いて克く罪となるべき事実を認証し得べかりしや否やによりて定まるものといわざるべからず」との判旨を引用しこの判例違反を主張したものである。

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